私小説。衝撃的なタイトルとその上をいく内容で、累計18万部のベストセラーに。今回は待望のドラマ化に際し、作者のこだまさんと、ドラマで演出を手がけたタナダユキさんにインタビューしました。
作品ではある夫婦の悲劇を中心にさまざまな挫折や葛藤が描かれますが、人生の後半を迎えた女性たちにとっては、その多くがかつて自分も経験した痛みのはずです。こだまさんとタナダさんはともに40代。これまでの悩みや葛藤、その孤独から抜け出したきっかけをうかがいました。

(右)タナダユキ 映画監督・脚本家。1975年生まれ、福岡県出身。2008年の『百万円と苦虫女』で、日本映画監督協会新人賞受賞。ほかに『俺たちに明日はないッス』『ふがいない僕は空を見た』など。自身が原作を手がけ、高橋一生と蒼井優が夫婦役を演じるが今秋公開予定。
(左)こだま 主婦。2017年、自身の体験をもとにした私小説(扶桑社)でデビュー。たちまちベストセラーとなり、2017、18年の2年連続で「Yahoo!検索大賞・小説部門」受賞。続く(太田出版)で第34回講談社エッセイ賞受賞。現在は、webマガジンで連載中。


生真面目さが生んだ悲劇。本当は、誰にも起こりえる話


――まずはタナダさんに質問です。『夫のちんぽが入らない』を読んだ時の感想を教えてください。

タナダ:最初はタイトルのインパクトに、他の人と同様「どういうこと⁈」と(笑)。でも、読んでみると最初の印象とはまったく違った。主人公の“私”は、あらゆることに非常に生真面目に向き合ったがために、どんどん自分を追い詰めていってしまう。読んだ後、これは決して自分とかけ離れた人の物語ではないと思いました。“私”の行動は追い詰められた人間特有のものではあるんだけど、「人間の思考ってこんなふうに飛躍してしまうのか」とも思ったし、それは自分にも起こりえることだ、と。

こだま:もともと私小説を書くつもりはなかったんです。友人と一緒に同人誌を作ろうとなった時に、まだ誰にも話したことのない、ブログにも書いていない話を書いてみようと思ったのがきっかけですね。素人のエッセイですから、まずは友人たちに面白いと言ってもらえればいいな、くらいの軽い気持ちで書いたのが、ネット上の口コミでどんどん広がって……。本になったら次はマンガ化、実写化とまったく想像していなかった展開で、正直、いま自分がどこにいるのかわかっていない感じです(笑)。

 

タナダ:この本を書いたことで、ご自身の中で何か変わったことはありました?

こだま:それまでは「こんなことを書いたら、人にどう思われるか」と怯えていた部分もあったのですが、あまりにいろいろな反応が来たので……。今はもう、開き直っています(笑)。同じ作品でも「よかった」と言ってくれる人もいれば、「こんな夫婦は嫌だ」という人もいる。受け取る人によってこんなに反応が違うんだから、気にしても仕方ないなって。


自分は自分にしか分からない。孤独は悪いことじゃない


――物語では夫婦の問題だけでなく、母への葛藤や仕事での困難など20年の半生で経験したさまざまな苦悩が描かれます。その中でも、こだまさんが一番孤独を感じたのはどの体験ですか。

こだま:子どもを持つか持たないかで、悩んでいた時ですね。親からも「子どもは?」とせっつかれたり、かなりプレッシャーをかけられていたので。また私は教師として小学校に勤務していたんですが、それと同時期に、私のクラスで学級崩壊が起きてしまったんです。夫婦の問題も、自分のクラスがおかしくなっていることも、その時は誰にも言えなかった。とくに仕事は初めての異動だったから、ここで絶対に逃げ出しちゃいけないと思っていたんです。でも頑張れば頑張るほど、どんどん自分が壊れていくのがわかって……。今思えば、生きるか死ぬかの状態の時にそこにしがみつく必要なんてなかったですよね。現状を維持しなきゃという使命感に、ものすごく縛られていたと思います。

――タナダさんにも、同じように孤独を感じたつらい時期はありましたか?

タナダ:私の場合は、自分の人生がどうなるかわからなかった20代後半ですね。この仕事だけでは食べていけず、バイトもしていたので。……ただ私は、人は孤独で当たり前なんじゃないかと思っているんです。例えば、これは以前整体に行った時のことですが、整体師さんに「あなたは側弯症です」と言われたんです。側弯症で何か大変になることありますか?って聞いたら「人より疲れやすいですね」と。でも、人がどれくらい疲れているかなんてわからないでしょう?(笑)それこそ自分のことだって、たまにわからなくなっちゃうことだってあるんだし。なんというかそういうところも含めて、孤独ってわりと当たり前のことだと思うんですよね。


言わないだけ。人に言えない部分はみんな持ってる


――たしかに、自分の本当の気持ちは自分にしか分からないという意味では、人生に孤独はつきものかもしれません。悩む前にそう思えたら、必要以上に傷つかずにすみそうです。

こだま:ただ傷ついているのに、それを気にしないようにするのはなかなか難しいですよね。実は私、子どもがいないことや自分が思い描いていた道から逸れてしまったことを、この本を出した後もまだ気にしていたんです。しばらくしてやっと、「たくさんの失敗を重ねた結果、こうして一つの物語になったのだから、最終的にはよかった部分もあるのかな」と思えるようになりました。失敗した先にも道はどんどん広がっていくのだから、そこで嘆いたり落ち込む必要はないんですよね。

タナダ:ある程度長く生きていると「あの時の失敗があったから……」なんてことが意外とある。何が失敗かなんてわからないですよね。こだまさんは、つらかった時期をどうやり過ごしたんですか。ただじっと耐えて?

 

こだま:じっと耐えて耐えて、耐えられなくなって精神的におかしくなって、その結果、本に書いたような突飛な行動に……(笑)。ただその突飛な行動のおかげで、普段の生活では絶対に出会わないような人たちと出会うことができたんですよね。彼らは私と同じようにみんな病んでいて、それを見ていたら、だんだん自分のことも「別にいいのかな」と思えたんです。それまで“堕落しているのは私だけだ”と思っていたけど、みんな話さないだけでどこかしら病んでいたり、隠し事を持っていたりするんだな、って。

タナダ:「病んでいる=悪」と思いがちだけど、そうではないですよね。まったく病んでいない人なんていないですから。

 
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