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心地いい食卓はデンマークの“ヒュッゲ”をお手本に

かつて広告代理店でCMプロデューサーとして働いていた時、デンマークでの仕事が何度かありました。基本的に、撮影はほかの人々と一緒に行うのですが、編集や音を入れる作業はひとりだけ残って働くこともしばしばありました。アメリカやイギリスなどの国でもそれは同じ状況でしたが、デンマークでは必ず「夕食はどうするのか?」と心配され、そしてみんなが「うちにおいでよ」と言ってくれたのでした。

夕ごはんは誰かとともに食べるもの。
だからわが家にジョインしないか、と。

仕事終わりの解放感の中、デンマークビールと白ワインをトレイの上にのせ、さあ、飲みましょうよとヒュッゲな時間が始まります。私がおじゃましたどのお宅もダイニングルームにテレビはなく、食事をする最中は音楽がかかっていました。

こちらはとくに仲良くさせていただいたマーティン一家のリビングスペース。淡いグレーの床がインテリジェントな雰囲気を醸し出しています。ラグの色みとクッションの色みが合っているので、立体的なつながりも感じられます。photo by Anita Behrendt

食事をしながらその日にあったことを語り合い、静かな時間が過ぎていきます。よくおじゃましていたプロデューサーのマーティン一家では、食事が終わると、当時小学生だった子供たちが器とグラスをえっちらおっちら流しへと運び、中学生のお兄ちゃんが洗っていました。私たち大人はテーブルを囲んだまま、赤ワインやコーヒーをゆったりと楽しみます。そんなふうにしっかりと役割分担がされていることに、当時はとても驚きました。

第一回目で“ヒュッゲ”とは、(正確に日本語に訳すことは難しいながら)「人と人との関係を結ぶような、心地よく温かい空間や時間」といった意味だとご紹介しました。デンマーク人にとっては、“ヒュッゲな生活を送る”ことこそが日々の喜びであり、人生で最優先されることなのだと。

それらを実感するのは、デンマークの友人たちとの家での食事の場、語らいの場です。どんな三ツ星レストランより、彼らの家で過ごした時間は私の記憶に残っています。おもてなしは料理だけが大事なのではなく、ヒュッゲな心地よさが主役なのだと教えられ、わが家もそうありたいと思うようになったのです。

PROFILE 行正り香/ゆきまさりか

高校3年時にアメリカに留学し、カリフォルニア大学バークレー校を卒業。CMプロデューサーとして広告代理店で活躍後、料理家になる。ふたりの娘と夫の4人暮らし。『』、『』『』ほか著書多数。サントリーのハイボールやアメリカンビーフ協会などテレビや広告などの料理も手がける。2018年には子どもから大人まで英語の基礎が学べる「」をローンチする。

 

<新刊紹介>

オールカラー128ページ 1600円(税抜)/講談社刊
ISBN 978-4-06-513068-1

“心地よくあたたかい空間や時間“という意味のデンマークならではの言葉、ヒュッゲをキーワードに家づくりと暮らし方をデンマーク親善大使(2017年 日本・デンマーク国交樹立150周年)の著者が提案します。


撮影/青砥茂樹
構成/山本忍(講談社)