いつからだろう、韓流ファンの枠を超えて、音楽、映画、文学好きが「Kカルチャー」の世界を語るようになったのは。各領域で質の高い作品を量産し、彼らは世界に語りはじめた。自分たちのこと、韓国社会のことを。
世界のライフスタイルを“旅”のフィルターで読み解くトラベルカルチャーマガジン『TRANSIT42 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ』では、そんなKカルチャーを取り上げました。その誌面の一部をここではご紹介。第二弾は「韓国映画」。韓国映画界を支える役者たちもPick Up!


映画産業と連動する社会情勢。


アジア映画研究を専門にする、立教大学教授、李香鎮(イヒャンジン)氏は、近年の「ニュー・コリアン・シネマ」の成功についてこう語る。「韓国の映画産業と民主化運動は切ってもきれない関係性にあります。ニュー・コリアン・シネマと呼ばれるジャンルが爆発的に成功した背景には、1980年代以降、経済状況や階級などに関係なく、庶民である私たちが団結して何かを懸命に表現することで世の中は変化できるんだというイメージをきちんと見せたことにあります」

日本統治時代 キム・ジウン監督による、独立運動団体「義烈団」の物語。ソン・ガンホ、コン・ユ、イ・ビョンホンなど大物俳優が出演し、ワーナーブラザーズが投資したアクションスリラー大作。 DVD/3800円/販売元:TCエンタテインメント/発売中 The Age of Shadows © 2016, Package Design &Supplementary Material Compilation © 2018 WarnerBros. Entertainment Inc. Distributed by Aya Pro. Allrights reserved.

80年代になると、民主化運動と連動する自然な動きとして、映画と政治の関係が深くなり、メッセージ性の強い、社会派リアリズムというジャンルが多く製作されるようになった。独立系ではなく、大衆的な人気がある商業映画が作れることが、韓国映画の強みと李氏は指摘する。辛い現実を生きる庶民が主人公になる映画は、社会を変化させるための重要なコミュニケーション手段になっていったそうだ。
「90年代後半から徐々に、韓国映画に政治やセクシュアリティなどのタブーがなくなりました。それ以前にあった、政治的な道徳的な基準がなくなり、自由な表現ができるようになったのです」。

日本統治時代『空と風と星の詩人 ―尹東柱の生涯』 福岡の刑務所で亡くなった、韓国で一番愛される詩人ユン・ドンジュの生涯をイ・ジュ二ク監督が低予算でモノクロ映画に。当時無名だったカン・ハヌルは本作に主演しブレイクした。 DVD/3800円/発売元:中央映画貿易 販売元:オデッサ・エンタテインメント/発売中 © 2016,MEGABOX PLUS M & LUZ YSONIDOS , ALL RIGHTS RESERVED

日韓交流を解禁した金大中政権(1998-2003)は、文化産業に資金援助をし、盧武鉉政権(2003-2008)では、イ・チャンドン監督が文化観光部長官に就任したりと、進歩的な映画関係者が政治にも関与し始める。結果、表現者の力が増したことで、バランスをとるように李明博(2008-2013)、朴槿恵(2013-2017)政権時代には、「文化芸術界のブラックリスト」が作成される。
「李明博政権では、ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督、俳優のソン・ガンホなどの名前が挙げられ、82人中7割が映画人でした。朴槿恵政権になると、このブラックリストの人数が9000人まで膨れ上がり、近年では自分の名前がリストにないことが恥ずかしいといわれるくらいになっていました(笑)」

南北問題『鋼鉄の雨』 北朝鮮のエリート工作員は、戦争の火種を消し止めることはできるのか……。ヤン・ウソク監督が、現代の北朝鮮と韓国の架空の紛争をリアリティをもって描く、スパイアクション。 Netflixオリジナル映画『鋼鉄の雨』独占配信中

民主化宣言から30年後に製作されたチャン・ジュナン監督作『1987、ある闘いの真実』など、政権を揶揄する作品はすべて闇に葬られた朴槿恵政権期に企画されたものだ。そんな時代だからこそ、希望になる歴史の記録を監督は作りたかったのだと李氏は言う。
「民主化学生運動に参加していた386世代(※1990年代当時に30代で、1980年代に学生時代をすごし、1960年代に生まれた人のこと)と呼ばれる人びとが結婚して安定し、自分の子どもの未来を考えたとき、今のもっとも暗い現実を変えて朝を迎えるためには、歴史の記憶をもつ誰かがその記憶を教えなければならない。子どもたちのために歴史映画を作ろうという社会的な共通認識が広がっていきました」

光州事件 1980年に多数の死傷者が出た光州事件を伝えたドイツ人記者と、彼をソウルから光州まで送り届けたタクシー運転手(ソン・ガンホ)の実話をもとにチャン・フン監督が映画化。 DVD/3800円/発売元:クロックワークス/販売元:TCエンタテインメント/発売中 © 2017 SHOWBOX AND THE LAMP.ALL RIGHTS RESERVED.

歴史を伝えるうえで重要なのは、トラウマをもっている当事者ではなく、そこから距離のある第三者、日常生活を送る庶民の観点から事実を物語ることだと李氏は話す。確かに、『1987、ある闘いの真実』の主人公は、学生運動に参加する先輩に恋する学生ヨニだった。光州事件を描いたチャン・フン監督の『タクシー運転手』でも、主人公キム・マンソプは光州ではなくソウルのタクシー運転手であった。いわゆる一般庶民の主人公に自分を投影することで、人びとは「この国でもまだ社会は変われるんだ」と信じる心をもつことができる。

6月民主抗争 警察の男子大学生の拷問致死事件から始まる民主化運動をチャン・ジュナン監督が描く。政権の目を恐れず、カン・ドンウォンは故イ・ハニョル烈士役をかって出た。 DVD /4700円/発売元・販売元:ツイン/2019年2月6日発売 © 2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

「トラウマをもつ人たちが描かれる映画は、当時そういう人たちに対して何もしていなかったという申し訳なさが先に立ってしまうんですよね。第三者の立場である映画の主人公が、映画を見る観客の感覚。その感覚になるまでに、30年という月日が必要だったのかもしれません」

釜林事件『弁護人』 1981年の軍事政権下で実際に起きた寃罪事件、釜林事件をモチーフにしたヤン・ウソク監督のデビュー作。若き日の故盧武鉉元大統領をソン・ガンホが演じる。 DVD/3800円/販売元:TCエンタテインメント/発売中 © 2013 Next Entertainment World &Withus Film Co. Ltd. All Rights Reserved.

映画は、結局楽しみであり、エンターテインメント。そう李氏は締めくくる。「トラウマを少しでも癒やすためには時間が必要でした。私たちが映画を通じて歴史の記憶を振り返り、社会的関心をもって日常のコミュニケーションに変えていくことで、民主主義とは何なのかを次世代に語り継ぐことができるのだと私は思います」


イ・ヒャンジン
韓国・釜山生まれ。立教大学異文化コミュニケーション学部教授。アジア映画研究専門。著書に(みすず書房)がある。

 
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