9月21日(金)に公開されたは、食べることが大好きな女たちと、美味しいものを食べることによって、再生していく女たちの物語です。

劇中に登場する料理は50品以上。完成披露試写会でも、小泉今日子さんや鈴木京香さん、沢尻エリカさん、前田敦子さんなどが口々に「美味しい撮影でした~」と言っていたので、その料理の内容が気になるところです!

実は、映画に出てくるすべての料理が原作者でこの映画の脚本・プロデュースを手掛けた筒井ともみさんによるもの。「トマトと卵と白きくらげの炒めもの」「菜の花の昆布〆め」「手羽先の岩塩焼き」「鯵のサワークリーム和え」「春雨と牛挽肉の中華風煮込み」「ポテトサラダ」「自家製ぬか漬け」など…特別なよそいきのレシピではなくちょっと気合いの入った家庭料理です。

筒井ともみ脚本といえば、映画『失楽園』の「鴨とクレソンの鍋」など料理と食べるシーンが有名。筒井さん自身も「どんなに忙しくても自分で作る」というほど「食」にこだわりがあり、筒井さんはたびたび、出版関係者、映画関係者、学生などを招いては、手料理をふるまっています。その手料理を食べたことのあるひとはみな「細胞が生き返るよう」「五感が目覚めて、元気になれた」と言うとの噂。それはなぜでしょう?

「料理はね。聖なる祝祭だと思ってるの。食材を鍋やフライパンの上で生き返らせる祝祭。素材と対等に、素材が生き生きと立つように料理するの」

なるほど、素材が生き生きと立ち上がっているから、シンプルな家庭料理でも、五感が敏感に反応する料理になるのかもしれません。

文筆家のトン子は、世話好きで料理好きで、トン子が住む「モチの家」には自然と食いしん坊の女たちが集まってくる。 ©2018「食べる女」倶楽部
ごはんや「みちくさ」の女将・美冬は、トン子の小学校時代からの同級生。 ©2018「食べる女」倶楽部
キッチンで玉子かけご飯を食べるシーンも。「玉子かけご飯だって立派な料理なんですよ」と筒井さん。©2018「食べる女」倶楽部

 

はじめてのレシピ本を満を持して出版

筒井さんの著書には、食にまつわる珠玉のエッセイ集『舌の記憶』『おいしい庭』もある。

各界の食通をその手料理で唸らせてきた筒井さんですが、今回、『食べる女』の映画化に合わせて、はじめて「レシピ本」を出しました。

「これまでレシピ本の話は全部断ってきたんですよ。私は昔から、やたらたくさんのレシピを並べただけの料理本や雑誌が嫌いで。そんなにたくさんの料理をできる必要はないのに、書店に平積みされているレシピ本が女たちの料理力を奪っているとさえ思うのね。パスタだって3種類くらい作れれば十分なのに、レシピ本があるせいでいくつものパスタを作ってみたりするでしょう。でも本当は旬に合わせて毎年同じレシピを繰り返すことのほうがずっと大事なんです」

繰り返し作っているうちに、その日ごとの味の違いに気づいたり、その人なりの味加減を見つけられたりするということでしょうか。

書籍『いとしい人と、おいしい食卓』には、19篇のエッセイとともに、前菜・サラダ、主菜・ごはん・麺、鍋・スープ・デザートの計46個のレシピが紹介されています。五感が目覚める筒井レシピとは、そもそもどんなものなのでしょうか。なにがほかの家庭料理と違うのでしょうか。レシピの一部を覗いてみたいと思います。

 

野菜が本来持つ旨さを引きだす、前菜・サラダ

「赤玉ねぎのソテー。和風バルサミコソースと香草を添えて」
「やわらか春菊の和風サラダ」

赤ワイン好きな客人に作った赤玉ねぎのソテー。赤玉ねぎにちょっといい塩と黒胡椒を振って、小麦粉を薄くまぶして両面を中弱火でじっくり焼く。フライパンでバルサミコ酢と醤油を煮詰めたソースをかけて、香草をたっぷり添える。それだけ。筒井さんはたとえばそれを、「おいしくなーれ」と呪文をかけながら岩塩と黒胡椒をすり込んで焼いた手羽先と一緒にいただくらしい。うわあ、美味しそう…。

春菊は葉先だけ手でちぎって、ふわっとお皿にのせて、いりごまを指でつぶしながらたっぷりちらして、醤油を少しずつぱらぱらと回しかけていただく。聞いているだけで、春菊の香りを感じられそう!

いずれも工程はシンプルなのに、塩や胡椒、バルサミコ酢と醤油のおかげで、玉ねぎの甘味とうま味をぎゅっと感じられたり、春菊の優しい甘さをふわっと口中で感じられたり。「食材を生き返らせる祝祭」とは、そういうことなのかもしれません。

からだに沁みる肉料理

「チキンソテー 実山椒とにんにく風味」
「大きな肉団子と白菜の煮込み」

実山椒が大好きで、初夏のころ買って、さっと湯がいて冷凍し一年中使えるようにしてあるという筒井さん。チキンソテーは、鶏のむね肉かもも肉に塩・胡椒してからにんにくの薄切りと実山椒を貼り付けて冷蔵庫で1~2時間置いて、オリーブオイルで焼くだけ。ピリッとくる山椒が鶏肉の脂によく合いそうです。

大きな肉団子は、まず大鍋で白菜のザク切りを空炒りして、別のフライパンで焼き色をつけた肉団子を白菜の上にのせ、戻した干し椎茸と戻し汁も入れて、煮込むだけ。あれこれと手を加えないのに、加えないから、肉の肉らしいところを感じられそう。いずれもからだに沁みる肉料理。新たなレパートリーに加えたくなる一品です。

〆のパスタと一口デザート

「きのことクレソンのスープパスタ」
「しらたま」

きのこを炒めたら、その鍋に水と調味料を入れて、パスタも二つ折りにして放り込み、アルデンテになったら、クレソンをのせていただくだけのスープパスタ。きのこの出汁をパスタがたっぷり吸います。それにクレソンを乗せて。ああ、いい香り~。と思わず鼻をヒクヒクさせてしまいそう(笑)。筒井さんがときどきブランチに頂くスープパスタだとか。

スイーツにあまり関心のない筒井さんが作る珍しい一口スイーツ。ザ・しらたま。皿の端に少し砂糖を乗せて、しらたまの肌の水滴で、少しずつ溶かしていただくんですって。なんだか少し色っぽい…。休日の午さがりにほっとできそうですね。

食材と対話しながら、いちばん美味しい食べ方で食べる。舌と鼻と眼と、指まで使ってその感触ごと味わい、それが身体の隅々まで細胞のすみずみまで行きわたるように。それがきっと、撮影中の女優たちをも唸らせ癒した、筒井レシピなのでしょう。

ご紹介した料理の材料と作り方は『いとしい人と、おいしい食卓~「食べる女」のレシピ46』に載っています。興味を持った方はぜひ作ってみてください。おばあちゃんになるまで繰り返し繰り返し作りたくなる料理に出会えるかもしれません。

 

<新刊紹介>

筒井 ともみ 著 ¥1500(税別) 講談社

9月21日に公開される映画の企画、原作、脚本、プロデュースを手がけた作家の筒井ともみさんが、映画の公開を記念して映画に登場する料理を含むとっておきのレシピを紹介。すべての年代の女たちへの愛情溢れる珠玉のエッセイもあり。食べることと愛すること。これを読めば、筒井さんが映画を通じてどうしても伝えたかったメッセージがきっと分かるはず。各界の食通をその手料理で長年唸らせてきた筒井さんがはじめてそのレシピを公開したことでも
注目される一冊。これさえあれば一生食べて(生きて)いける!

撮影/ワタナベ セイ 構成/川良咲子(編集部)