20代後半でパリに移住して以来、独特の価値観に惹かれる「フランス女」たちを興味深く観察し続けてきたというエッセイストの長坂道子さん。インタビュー前編では、何歳になっても“女であること”にこだわるフランス女のアイデンティティのお話を。後編となる今回は、もうひとつのポリシーである、“自分らしくあること”について、そのファッション観も例にあげながら語ってくれました。

長坂道子 1961年生まれ。フリージャーナリスト、エッセイスト。京都大学文学部哲学科を卒業後、雑誌『25ans』などの編集者を経てパリに移住。以来、アメリカのペンシルヴァニア州、ロンドン、スイスに移り住みながら、取材、執筆活動を続ける。著書は(小学館)の他、『フランス女』(マガジンハウス)、『世界一ぜいたくな子育て』(光文社新書)、(新日本出版社)など多数。家族は夫と一男一女、犬一匹。


主張の自由を尊重したいから
ストライキも容認


前回のインタビューの内容からは、フランス女が年齢や立場にかかわらず、常に“女”でいられる背景には、フランスの社会的・文化的な土壌も大きく関係しているように感じられました。とはいえ、フランスの女性たちも、女であることを謳歌するためには、様々な葛藤と戦いながら努力しているよう。

「優雅でコケティッシュに見えるフランスの女性たちも、水面下では必死にもがいているのではないかと思います。ただ、フランスの女性たちは、自分に関係ないことに無駄に振り回されない。そのブレなさ加減は、とてもキッパリしています。“やりたくないことはやらない”という反骨精神も旺盛。たとえば、フランスは頻繁にストライキが起こる国。それは、もちろん周囲にとっては、日常生活に支障が出て迷惑なことなのですが、一方で『仕方がない』と考えている節もある。『多少まわりに迷惑をかけたとしても、言いたいことを言い、やりたくないことをやらないのは当然の権利である』という基本理念が根づいているんですね。」


言われてうれしい褒め言葉は
「いかにも、あなたらしい」


そんな国民性を持つフランスの女性たちは、何をするにも“自分らしさ”というものさしが欠かせないよう。そんな傾向は、もちろんファッション観にも現れているという。

「フランス女は、ファッションにおいてもロールモデルを探しません。“私のロールモデルは私”なので、お手本は不要なのです。もちろん、パリに住んでいてトレンドに無関心ということはありませんが、『流行っているから着たい』とか『あの人が持っているから欲しい』という感覚は、かなり薄いんじゃないでしょうか。言われてうれしい褒め言葉は、『そのスカート可愛いね』ではなく、『いかにも、あなたらしいわね』なのです。」

自分らしさを重視するには、当然ながら、まず“自分らしさとは何か?”を知る必要があります。まずは、そのこと自体が難しそうですが、フランスの女性たちは、一体どうやってそれを見つけるのでしょうか?

「彼女たちは幼い頃から、両親や兄弟、まわりの人たちに『あなたには◯◯が似合うと思う』と言われながら育ちます。母親とショッピングに行っても『あなたはこの髪色だから、こっちの色が似合うわよ』という言い方をされるのが一般的。そうやって少女の頃から、“自分の身体はこうで、性格はこう”という揺るぎない部分を長所としてかたちづくっていき、いざ自分で服を選ぶ年齢になると『これは私らしい』という視点で選べるようになるのだと思います。自分らしさとは、きっとそんな風に育んでいくもの。日本人は、あまり他人のファッションに意見を言う習慣がない気がしますが、ときには、家族や友人同士で『似合う』『似合わない』と言い合ってみると、コミュニケーションも深まっていくのではないでしょうか。」

ところで、最近、長坂さんは、日本で「美魔女」と呼ばれる女性たちの存在が気になっているそう。そこには、フランス女の美意識とは相容れない不自然さを感じるようで・・・

現在お住まいのスイスでは様々な国の女性たちとおつき合いがあるそうですが、そんななかでもフランス女は際立っているそう。「フランス国籍の女性たちは、おしゃれなのですぐにわかります。髪型や服装が、どこかフェミニンなんですね。言葉で表現するのは難しいですが、ソフトなものの取り入れ方が上手なのかもしれません。」


 

フランス女にはあり得ない
「美魔女」と「マウンティング」


「『美魔女』って一体どういうことなのかしら?(笑) エイジレスを目指す“イケてるおばさん”…? 私自身は、シワだらけのジャンヌ・モローを美しいと感じる性質(たち)なので、あまりよく理解できません。生物として若く瑞々しい美しさに惹かれるのはもちろんあると思うけど、人間はもっと文化的な存在のはず。人生経験があるからこそ得られる機微やニュアンス、寂しさや達観などから醸し出される色気を感じ取れる方が、人生が彩り豊かになる気がします。フランスでは、男女問わずそういう意識が強いですね。統計によれば、フランスの女性は、エイジングへの関心は低いそう。さらに、約3分の1の人たちが『“オールド”という形容詞が始まるのは80歳から』と考えているそうです。」

「美魔女」ついでに、数年前に流行語となった「マウンティング」についても伺ってみました。マウンティングとは、持ち物やキャリア、夫の年収などを暗に格付けし合い、人間関係における自分の立ち位置を確認する行為。フランスの女性たちにもそんな感覚はあるでしょうか?

「それはあまりないと思います。みんな自分軸をしっかりと持っているので、他人を基準に自分を評価するようなことはしないのではないでしょうか。別に他人に興味がないわけではないですよ。たとえば、誰かのなかに自分にない個性を見つけたら、きっと好奇心で「それってどういうこと?」と話し掛けると思います。でも、誰しもまったく同じ経験ばかりしているわけはないのですから、本当は知らない世界を持っているのはお互いさま。そこには、上も下もないのでは?人の経験を羨むよりも素直に質問できた方が、自分の人生も豊かに広がっていきそうですよね。」


パリで味わった解放感
「実は、身長が伸びたんです(笑)」


現在、長坂さんはスイスにお住まい。来春からは下のお子さんである娘さんが大学生になり家を出るため、そろそろ次のライフステージを考えているところだそう。

「いま、もう一度、パリに住みたいと思っているんです。夫の仕事の都合などで、アメリカ、ロンドン、スイスと移り住んできましたが、私にとって、パリはやはり特別な場所。最初に住み始めた頃は、上手く言葉も話せなかったし、日本人メンタリティだとフランス人は主張が強くて怖いとか、めげそうになったことは数知れず・・・。昔のフランス人は、今よりもっとスノッブで意地悪でしたしね(笑)。でも、それでもパリに住み続けたのは、やはりフランス人の価値観が好きだったから。美的センスもそうですが、自分をしっかり持っている女性たちは、カッコよかったんですね。

私自身、渡仏する前と後とでは、確実に変化があったと思っています。たとえば、私は京都大学出身なのですが、当時の日本はまだ『女のくせに』という世相が強く、どこか自分をバカっぽく演出するのが無意識のうちにデフォルトになっていたと今にして思うのです。ところがパリに来たら、優秀な女性たちが堂々と知性を発揮していて。なおかつ、おしゃれでもあることに驚きました。私は当時、“おしゃれ”か“真面目”かは、どちらか一方を選ばないといけないと思い込んでいたんです。それがパリの女性たちは、両方だろうが3つ、4つだろうが、制限なく生き方のオプションを楽しんでいた。欲しいものを全部手に入れようとしているそのことが、とても自由に感じられました。

実は私、フランスにいる間に靴のサイズが大きくなり、身長も伸びたんですよ(笑)! 縮こまっていた意識に制御されていた身体が、思いきり解放されたのでしょうね。それ以来、すっかりパリの居心地がよくなってしまって。パリを離れるのは寂しかったけれど、結果的には、数カ国で暮らしてみたことで、日本もフランスも相対化して見られるようになったことは、悪くなかったと思います。フランスと日本では、歴史も社会制度も世相も違います。それぞれ一長一短があり、一概にどちらがいいと言えることではありませんが、ただ、もしもいま、迷ったり不安に思ったりしていることがあるのであれば、フランス女の生き方を知ることで、目の前にある常識だけが正解ではないと感じられるのではないでしょうか。」

長坂道子さんインタビュー①はこちら>>

<著書紹介>

長坂 道子 著 1400円(税別) 小学館

仕事に、家庭に、子育てに、と夢中で日々を送るなか、ふと「“女であること”を置き忘れていないか?」と気づき始めるミモレ世代が、ぜひ手に取ってみたい1冊。何歳になってもコケティッシュな魅力を放つ「フランス女」にまつわる9つの“神話”について、在欧歴約30年の長坂道子さんが最新の考察で紐解いている。「フランス女は太らない」「フランス女は美しく歳を重ねる」「フランス女は生涯恋愛体質である」等々。何が真実で、何は眉唾なのか? フランス的美学のひとつには「エール・ド・リヤン=涼しい顔」という考え方があるのだそう。本書を読めば、涼しい顔で女を謳歌している(ように見える)フランス女が、意外にも、私たちと同じように心の葛藤を抱えていることも見えてくるかもしれない。

取材・文/村上治子 構成/川良咲子(編集部)