20代後半で初めて訪れたパリで、ドラマティックな景色と女性たちのカッコよさに心を奪われてしまったというエッセイストの長坂道子さん。その半年後には、電撃的に単身渡仏。以来、パリをはじめ数カ国で暮らしながら多くのフランス女たちと出会い、その魅力を間近で観察してきたそう。今年4月に上梓したでは、世間が抱きがちなフランスの女性たちにまつわる9つの“神話”について、ときに賛成し、ときに異を唱えながら、その真相を解き明かしています。「フランス女は生涯恋愛体質である」「フランス女は人間である前に『女』である」等々。長坂さんが、約30年間にわたって内側から見続けてきたフランス女の気になる“本当のところ”は、悩み多きミモレ世代にどんなヒントをくれるのでしょう。

長坂道子 1961年生まれ。フリージャーナリスト、エッセイスト。京都大学文学部哲学科を卒業後、雑誌『25ans』などの編集者を経てパリに移住。以来、アメリカのペンシルヴァニア州、ロンドン、スイスに移り住みながら、取材、執筆活動を続ける。著書は(小学館)の他、『フランス女』(マガジンハウス)、『世界一ぜいたくな子育て』(光文社新書)、(新日本出版社)など多数。家族は夫と一男一女、犬一匹。

 

27歳で初めてパリへ
「ここは、女性が主役の街だ!」


「初めてパリを訪れたのは、女性誌『25ans』の編集者をしていた27歳の時。それまでは特にフランスに思い入れがあったわけではありませんでしたが、偶然にも短期間に3度もパリ出張が重なり、1度目は街の美しさに衝撃を受け、2度目、3度目に訪れた時には、その美しい舞台で生きる女性たちの粋な姿にすっかり魅了されてしまいました。パリの街は、“女性が女であることを謳歌している”空気感に満ちていました。『“女性が主役”に見えるこの街に住んでみたい!』と痛切に感じ、3度目の出張から帰国するとすぐに、編集長に『パリに行くので、半年後に会社を辞めます』と宣言していました(笑)」

 

『人間である前に“女”である』
そのこころは?


「フランスの女性は、他のどの国の女性たちよりも女であることを謳歌している!」長坂さんが抱いた第一印象は、その後、実際にパリに移住し、海外生活歴が30年になる現在でも、大きく変わることはないそう。

「フランスの女性たちに『あなたのアイデンティティの1番に来るものは何?』と質問すると、例外なく『女であること』という返事が返ってくるんです。この場合の“女”とは、やはりセクシャルな意味を含んでいるのだと思いますが、それは決して“常に恋人探しをしている”ということではなく、“何歳になっても恋愛できるポテンシャルを持ち続ける”とか“恋愛の可能性からリタイアしない”といった、心の持ちようのこと。だから、たとえば夫婦でも、長く一緒に暮らした末に、もはや男女としての愛がなくなったと感じたら、“茶飲み友だち”としてパートナーシップを続けていく可能性は低い。もちろんその選択は、子どもや身近な人を傷つけたり、築き上げてきたものを壊すことになるかもしれません。それでも、フランスの女性たちにとって、愛のない状態で惰性としての夫婦関係を続けていくことは、自分に嘘をつき続けるような居心地の悪さを感じてしまうのでしょう。」

“茶飲み友だち夫婦”——-。日本では、長年連れ添った多くの夫婦にとって、むしろそれがスタンダードと言ったら言い過ぎでしょうか。そのうえ近年では、老後の貧困も見逃せない問題のひとつ。夫婦一緒でさえ先が見えないこの時代に、離婚してひとりで生きていこうとするのは、あまりに不安です。もしかしたらフランスの社会は、日本に比べて、老後の“おひとりさま”が生きやすい環境なのですか?

「老後の経済環境という点では、フランスも日本と大差ないと思います。失業率も高いですし、明日をも知れない不安は常につきまとう気がします。ただそれでも、人生を天秤にかけた時、フランスの女性たちにとっては、老後の不安よりも愛のない相手と暮らす息苦しさの方が耐え難く感じられるということでしょう。どちらがよいということではなく、日本とは優先順位が違うのかもしれません。でも、ひとつ言えるのは、フランスの女性たちは日本人に比べて、結婚後も仕事を続ける割合が圧倒的に多いということ。フランスの専業主婦率は、約14%と言われています。経済不況は相変わらずだし、男女の賃金格差は日本よりひどいくらい。労働環境が整っているとは言い難いですが、それでも、フランスの女性たちが石にかじりついてでも仕事を続けようとするのは、やはり“経済的に自立することで自由を手放さない”ことへの確固たる意志があるからに他ならないでしょう。」

長坂さんご自身は1男1女の子育てを経験。「頭の半分くらいはフランス的な思想が入り込んでいるので、やはり娘には、一生仕事をし続けるように刷り込んでいる気がします。」


母になっても自分は自分
アイデンティティは譲らない


結婚、出産を経ても、仕事をし続けることがスタンダードであるフランスの女性たち。かたや日本では、出産を機に仕事のキャリアが中断されてしまうことも少なくありません。そこには自立への欲求に対する意識の差もあるのかもしれないが、そもそも、子育て習慣にも大きな違いがありそうです。

「フランスは、世界一、母乳育児をしない国かもしれません。その理由は『バストの形が悪くなるから』『そんな雌牛みたいなことできない!』『仕事に早く復帰したいから、赤ちゃんの奴隷にはなれない』など様々ですが、夫の方が、妻が“母親”に染まることを嫌がるケースも多いよう。また、これは欧米全般に言えることですが、赤ちゃんは子ども部屋に寝かされるのが一般的。女性たちは、赤ちゃんの世話をしている時はお母さんですが、夜にはこれまで通りの自分を取り戻します。日本のように、四六時中、母親であり続けることはないので、日常や仕事への復帰もしやすいのかもしれませんね。またフランスでは、オペラやディナーに行きたくなったら、子どもを預けて夫婦で出掛けるのが一般的。子ども服は大人のファッション同様にシックなデザインだし、夏の家族旅行は親の行きたいところに子どもがつき合わされるのが当たり前。社会全体が “大人仕様”なので、子どもを持つことによって自分を大きく変える必要がなく、“女”であることを諦めたり中断したりすることもないのです。そして、そんなフランスの出生率は、ヨーロッパではここのところずっと第1位。母親になることが“自分らしく生きること”の足枷にならないからこそ、女性たちは気軽に産んでみようという気になるのかもしれません。」


フランスの女性たちにとって、“どんな時も自分らしくあること”は“女であること”と同じくらい譲れないポリシーのよう。8月15日(水)公開の後編では、この“自分らしくあること”の意味について、フランス女のファッション観も紐解きながら、たっぷりと伺います。どうぞお楽しみに!

長坂道子さんインタビュー②はこちら>>

<著書紹介>

長坂 道子 著 1400円(税別) 小学館

仕事に、家庭に、子育てに、と夢中で日々を送るなか、ふと「“女であること”を置き忘れていないか?」と気づき始めるミモレ世代が、ぜひ手に取ってみたい1冊。何歳になってもコケティッシュな魅力を放つ「フランス女」にまつわる9つの“神話”について、在欧歴約30年の長坂道子さんが最新の考察で紐解いている。「フランス女は太らない」「フランス女は美しく歳を重ねる」「フランス女は生涯恋愛体質である」等々。何が真実で、何は眉唾なのか? フランス的美学のひとつには「エール・ド・リヤン=涼しい顔」という考え方があるのだそう。本書を読めば、涼しい顔で女を謳歌している(ように見える)フランス女が、意外にも、私たちと同じように心の葛藤を抱えていることも見えてくるかもしれない。

取材・文/村上治子 構成/川良咲子(編集部)