60歳になるのを機に、働き方も暮らし方も、大きく「ダウンサイジング」を実現した、料理家の藤野嘉子さん。新刊より、キッチンの工夫をうかがいました。
 

小さなキッチンを広く使う工夫


私たちが25年間住み続けた150㎡のマンションを売却し、65㎡の賃貸物件に引っ越したのは、私が59歳、夫が64歳の時でした。隠居するにはまだ早い年齢の私たちがなぜ住み慣れた家を離れたのか。
夫の提案は「年齢に合った暮らし方をしよう」でした。
自分たちのフランス料理の店「カストール」をダウンサイジングし、それに伴って暮らし方も変えようと思ったのです。
住まいを小さくしたことで、キッチンもかなり小さくなりました。独立型の細長いキッチンで、コンロと調理台、流しが横一線に並び、反対側に食器棚を置いています。広さはだいたい2畳分くらいでしょうか。引っ越し前の準備のときは、新婚家庭をイメージして収納量を考えました。
小さなキッチンで効率よく料理をしようと思ったら、まずはものの量を減らすこと。調理器具は、鍋が大と小2つで、大きなほうは煮物やシチューを作るときに、小さなほうは味噌汁用。フライパンも大と小2つで、小さなフライパンは、一人分の料理を作るときに便利です。電化製品はあまり持たないタイプなので、今あるのは炊飯器とオーブントースター、電子レンジ、あとはハンドブレンダーとフードプロセッサーです。
あとはお玉が2つ、菜箸も2膳、ゴムベラやフライ返しなどもそれぞれ1つ、2つあれば間に合います。計量スプーンは、大さじが2つ、小さじは1つ。ボウルやざる、バットやトレイなども思い切って整理しました。
キッチンが広かったときは、塩もみしたきゅうりをぎゅっと絞って、料理番組のようにガラス製の小さなボウルに移していましたが、今はそのまま保存容器に入れて片付けます。いちいち移し変えていたら場所を取るし、洗い物だって増えるのです。ガラス製のボウルは、見た目はいいけれどかさばるのが難点。今は百均ショップで買ったトレイの3点セットとバットを有効活用しています。重ねやすくて便利ですよ。
調理道具は、まだまだ考え中。もっと減らせるような気がしています。見直しをこれからも進めていこうと思います。
 

我が家の約2畳のキッチンスペース。二人でも満員御礼ですが、棚を使って楽しく料理する工夫が身につきました。


さらに調理の仕方も変わりました。以前は、最初に食材をまとめて切って、それをバットに移して置いていたんです。だけど、いまは煮物用の野菜を切ったらそのまま煮物を作って、味噌汁用の野菜は、味噌汁を作るときに切ります。これまでは切る作業をまとめて最初にやったほうが効率的だと思っていたのですが、意外とそうでもないのです。野菜は一品ごとに切ったほうが省スペースですむし、調理時間も大して変わりません。
鍋の段取りも考えるようになりました。大きい鍋で真っ先にだしを取ってしまうと、小松菜をゆでようとしたときに使えないので、先に野菜をゆでてから、だしを取るようにするなど、キッチンが小さくなってから段取り上手になりました。以前は、何も考えないまま真っ先に味噌汁を作ってしまうこともあったのです。だけどいまは鍋の置き場所がないので、コンロの1つを味噌汁の入った鍋がふさいでしまいます。そんなことを考えながらの料理は、ちょっとした頭の体操です。
合わせ調味料やたれも、小さいキッチンでは作るのがひと手間だということにも気づきました。レシピには、煮物や炒めものに使う合わせ調味料を先に作っておくよう書いてありますが、醤油や砂糖をそのまま直接、鍋に入れてしまったほうがラクで省スペース。洗いものも少なくてすみます。味も大して変わりません。料理研究家としても、それに気づけたのはよかったです。
 

小さいキッチンだからこそ便利な「スペース」作り


食器棚の一部には、あえて「何も置かないスペース」を作っています。これは、調理途中のものを置くためなどの、多目的スペースです。キッチンの調理スペースがまな板一枚を置くといっぱいになってしまうので、野菜を切って次に肉を切る、というときに、先に切った野菜を置いておくのに使えます。このスペースがあるだけで作業効率がぐんとアップするので、小さいキッチンに悩む人は、食器を減らしてでも作ることをおすすめします。

キッチンをミニマムにしているからこそ、何も置かないスペースは大助かり。


いま欲しいと思っているのは湯のみです。デイリーで使うものこそ、気に入ったものを使いたいので探しています。あれもこれも減らすのではなく、暮らしのなかのちょっとした贅沢は、これからも続けていくつもりです。

藤野 嘉子

料理研究家。学習院女子高等科卒業後、香川栄養専門学校製菓科入学。在学中から料理家に師事。フリーとなり雑誌、テレビ(NHK「きょうの料理」)、講習会で料理の指導をする。「誰でも簡単に、家庭で手軽に作れる料理」「自然体で心和む料理」を数多く紹介し続け、その温かな人柄にファンも多い。著書に(文化出版局)、(永岡書店)、(講談社)など、多数。夫はフレンチレストラン「カストール」のシェフ、藤野賢治氏。

 


藤野 嘉子 著 1200円(税別) 講談社

【1章 ダウンサイジングする暮らし方】150平米から65平米に/持ち家へのこだわりを捨てる/子どもに何を残すのか など
【2章 食を楽しむ】やっぱり美味しいものが好き/作るのは週に2、3回/いつでも作れるレシピ など
【3章 心を豊かに】 自分の着地した場所が一番/母との暮らし お世話はできる範囲で などコラム 60歳を過ぎたわたしのお気に入り

『生き方がラクになる 60歳からは「小さくする」暮らし』のほか、料理、健康・美容など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。

(この記事は2018年7月1日時点の情報です)
構成/庄山陽子(講談社) 写真/井上孝明(講談社)

 

・第1回「60歳で広さ半分の家に。暮らしを『小さく』するコツとは?」はこちら>>
・第3回「「熟年家族は、わかり合う必要がない」60代のいまだからわかること。」はこちら>>